橋口亮輔『僕は前からここにいた』
久しぶりに橋口亮輔監督のエッセイ集『僕は前からここにいた』を手に取った。博論で木下惠介について書いたとき、橋口監督のエッセイ集には何度も目を通したのだけれど、今回は大きく心を揺さぶられた箇所があったので引用しておきたい。
「大学時代、僕は8ミリ映画の中で、自分に実際にあった出来事を半ドキュメンタリーの形をとった作品に撮っていた。
テレビの少年のように、心の中の湖面の水を波立たせないように虚ろな生活を送りながら、生きている実感を感じたいという欲求が首をもたげ始めた為だ。
虚ろに過ぎた時間を、もう一度過去を再現し画面の中で生き直すことで埋めようとしたのだ。しかし、現実に生きる僕の時間とは別に、振子を止めてしまった時間が内にあることも分かっていた。
ゲイである大切な部分を放ったらかしておいては、いつか二つの時間に自分が引き裂かれてしまうと考えるようになる。
そして、眠らせておいた自分への為に、ドラマという形で映画を撮り始める。
"今まで放っておいて御免。君に肉体をあげるからね。"
そんな罪ほろぼしである。
一つの僕の決心は、存在しなかった少年時代から、百万馬力の少年になって生き直すことだ。僕の視線は過去へ過去へと進んでいるように見えながら、実は、未来を獲得する事なのだ。
そして、いつか、過去が同時に懐かしい未来であるような瞬間を迎えることができると信じている。」(124-125)
なぜだか分からないが、この箇所を読んだとき、涙が出そうなくらい震えた。その体験をもっと鮮明に言語化したい。
表象文化論学会第12回大会での口頭発表について
2017年7月1日と2日、アーツ前橋にて表象文化論学会第12回大会が開催されます。。プログラムは学会HPでアップされました。
今年は僕も以下のパネルで発表することになりました。
16:00-18:00 研究発表(1日目)
場所:前橋市中央公民館5階501〜504学習室(パネル4のみ17:30まで)
パネル2 日本映画におけるマイナーの系譜──クィア理論を拠りどころにして(502学習室)
・2010年代の日本映画においてゲイ男性を描写すること/演じることについて/久保豊(京都大学)
・ 小津映画をクィアする──『彼岸花』にみるモノたちの潜勢力/伊藤弘了(京都大学)
・ 『夏子の冒険』における娯楽的演出と女性表象/須川まり(奈良県立大学)
【コメンテーター】ミツヨ・ワダ・マルシアーノ(カールストン大学)
【司会】木下千花(京都大学)
SCMS2017に参加してから、日本映画において性的マイノリティがどう描かれているのか、もっときちんと知りたいと思い始めたので、今回はゲイ男性の表象について考えることになりそうです。頑張らねば。
博士後期課程を修了しました。
2017年3月23日、博士後期課程を修了しました。3年間で博士論文を書くのは正直かなりしんどかったです。しかし、これ以上かけても良いのは書けない、とある程度のところで見切りをつけたことが結果的にうまく運び、3年で目標を一つ達成できたことは素直に嬉しいです。SCMSに参加していたため、修了式には出席できませんでしたが、一昨日学位記をいただき、修了したことを公式に確認できました。
4月からは京都大学国際高等教育院の非常勤講師として働きます。週二コマだけなので、他にも仕事は必要ですが、修了後の第一歩としてはチャレンジングな職場になるでしょう。たぶん。科目は英語リーディングで、教科書が決まっていないということもあり、専門の映画学に寄せた授業を行います。教科書には、Hollywood: A Very Short Introduction (Oxford University Press、2015)を使うことにしました。ページ数もそんなに長くないので、一学期で読み切る予定です。
Hollywood: A Very Short Introduction (Very Short Introductions)
- 作者: Peter Decherney
- 出版社/メーカー: Oxford University Press
- 発売日: 2015/12/29
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SCMS2017から帰ってきました。
シカゴで開催されたSCMS2017への参加を終え、二日前に帰国しました。SCMSには修士のころから入会していましたが、参加・口頭発表をしたのは今回が初めてでした。
発表は初日、しかも僕は一番最初の枠(10:00~11:45)の一番最初の発表順を任されていたため、緊張しっぱなし。でも同時に、誰の発表も聞いていない状態だったので、自分のやりたいようにやろう!とただただ大きな声でゆっくり喋ることを心がけました。SCMSの会場はマイクがないことが多いらしく、それも当日まで知らなかったのが幸いでした。知っていたら、たぶんもっと緊張していたかもしれません。
発表は原稿を読む形を選びました。行きの飛行機の段階では、原稿は10頁半ほどあったんですが、20分では8頁がMAXと助言を受けて急いで書き直しました。もともとは映画作品を4本取り上げて話をするつもりでしたが、結局は一番話をしたかった1本に絞り集中して論じることにして正解でした。学会全体を通して他の参加者の発表をたくさん聞いたんですが、みなさん原稿を読んでいました。パネルとパネルの時間が押し合うこともなく順調に毎日進んでいたので、やはり原稿を使ってきっちり時間制限の中で発表することの重要性を改めて気づかされました。
たくさんのパネル発表を聞いて、まだ十分に消化しきれていないのでメモを整理していきます。
今回、木下千花先生とミツヨ・ワダ・マルシアーノ先生にたくさんの日本映画研究者に紹介していただきました。なかでも、メディア・ミックスに関する著書のあるマーク・スタインバーグさんと初日から話ができたのが嬉しかった。アレックス・ツァールテンさんとの共編で、日本のメディア理論に関する文献が最近発売されています。この春からの読書会で使いたい。
他の学会でも同じだと思うんですが、最終日前に各出版会社の本が30~50%割引セールになります。普段25〜30ドルする本が10ドルで買えたりするのでかなりお買い得。僕も調子に乗って10冊買ってしまったので、その一部も載せておきます。
- 作者: Bonnie Ruberg,Adrienne Shaw
- 出版社/メーカー: Univ of Minnesota Pr
- 発売日: 2017/03/28
- メディア: ペーパーバック
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ゲーム好きにはたまらない。しかも、クィアの視点を導入することで何が論じられるのか。少しずつ読み進めていきます。
Pink 2.0: Encoding Queer Cinema on the Internet
- 作者: Noah A. Tsika
- 出版社/メーカー: Indiana University Press
- 発売日: 2016/10/03
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ずっと気になっていた本。ブースで見つけて即買いました。
- 作者: Scott Balcerzak
- 出版社/メーカー: Wayne State University Press
- 発売日: 2013/10/15
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この本はハリウッドのアクション映画に関する論文で引用されていたのを見かけてから気になっていました。春からハリウッド映画について授業をするので、その資料の一つに購入。
Presentation at 2017 Annual Conference of Society For Cinema and Media Studies
3月22日からシカゴでSociety for Cinema and Media Studiesの2017年度大会があります。博士後期課程3年間のうちに一度は行っておきたいと思っていたのですごく楽しみにしています。ただし、口頭発表もしないといけないので、それに向けた準備を仕上げていかなければなりません。とほほ。
大会のプログラムはこちらで見られます。
Upcoming Conference - Society For Cinema and Media Studies
僕は、京都大学の木下千花先生と一橋大学博士後期課程の片岡祐介さんとパネル発表をします。ディスカッサントは、カリフォルニア州立大学バークレー校のDan O'Neill先生にお願いしています。
僕たちの発表は初日の午前中で終わりますが、僕はその後も最終日くらいまでシカゴに滞在して発表を聞く予定です。その間に学振の報告書、月末締切の論文、春からの授業の準備を並行して行います(予定だけど)。さぁぼちぼちやろう。
最後に最近読んでとても勉強になった書籍を紹介します。森山至貴著『LGBTを読みとく クィア・スタディーズ入門』です。僕はクィア批評を映画論に取り入れようと努力している一方で、十分にクィア・スタディーズの概要を把握できていないと思っていたので、本書を読んで改めて理解できた内容もありました。各章冒頭にそれぞれで扱う要旨的文章が書かれているのですが、すごくわかりやすい。こういう書き方はぜひ真似して身につけたいと思いました。
LGBTを読みとく ──クィア・スタディーズ入門 (ちくま新書)
- 作者: 森山至貴
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2017/03/24
- メディア: Kindle版
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シンポジウム「映像と性の政治 ―映画とその上映の実践から」のお知らせ
とりあえずの近況報告
前回のエントリーから一ヶ月以上放置してしまいましたが、生きています。周りは風邪やインフルエンザにかかってバタバタと倒れていて、僕もそろそろかかるんじゃないかとひやひやしていたが、今年はなぜか元気でありがたい。
この一ヶ月は博論と就職活動に注力してきた。博論の方は今週中に製本に出し、来週頭に本提出できそうだ。一月は博論の調査委員会と公聴会があり、それらをこなしながら三つの公募に応募した。本当はもう一つ今日締め切りのものがあったんだが、間に合わず断念した。かなり悔しいが仕方ない。
今年初めに締め切りだった書評は無事に『図書新聞』に掲載された。僕は御園生涼子さんの『映画の声--戦後日本映画と私たち』(みすず書房)を担当させていただいた。2月4日発売分に掲載されたので、図書館などで見かけた際はぜひ目を通していただきたい。今後の日本映画研究にとって、僕たちが何度も立ち戻るべき視点を提供している名著だ。
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/shinbun_list.php?shinbunno=3289
大学院生活も一応残り一ヶ月半。二月の残りは三月頭に国際基督大学で開催されるシンポジウムの用意をする。三月は忙しくて、二週目には仙台へ行き、三週目にはSociety for Cinema and Media Studiesの大会で口頭発表をするためにシカゴへ行ってくる。渡米中に修了式があるため、帰国後に修了証を受け取りに行くことになるだろう。とりあえずは原稿を書かねばならぬ。