No Rainbows, No Ruby Slippers, But a Pen

本ブログでは研究関連で読んでいる書籍、(新作)映画作品の紹介、日々の考察を中心に共有していきます。また、漫画、アニメ、小説、写真などについても感想などを述べていけたらと思っています。

エンパクシネマ vol.2 (2018年)のダイジェスト版を公開しました。

2018年10月8日に早稲田大学演劇博物館で開催した野外無声映画上映会「エンパクシネマ」の様子を撮影した動画のダイジェスト版が公開されました。4分ほどの映像ですが、活動写真弁士の澤登翠さん、山城秀之さん、ピアニストの柳下美恵さんの伴奏を味わうことができると思います。

 

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『老ナルキソス』(東海林毅、2017)

 下北沢のDARWIN ROOMで開催された第二回LGBTスタディーズ「多様な性のあり方」 にて、東海林毅監督の『老ナルキソス』を観た。第27回レインボー・リール東京をはじめ、国内外の様々な映画祭で賞を獲得している作品で、昨年からずっと気になっていた。

 

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 国内外の昨今のLGBT映画・クィア映画が若さを物語の中心に置く傾向にある。『Starting Over』(西原孝至、2014)、『春みたいだ』(シガヤダイスケ、2017)、『君の名前で僕を呼んで』(ルカ・グァダニーノ、2017)、『彼の見つめる先に』(ダニエル・ヒベイノ、2014)といった作品が例に挙げられるだろう。LGBT映画・クィア映画を取り巻くこのような状況のなか、『老ナルキソス』は古稀間近のゲイ男性を主人公に据え、国際映画祭マーケットで不可視化されやすい老人の性的欲望をSMやスパンキングという行為を通じて描く。その意味で本作は非常に野心的な作品だといえる。

 

 本作最大の面白さは、田村泰二郎演じる主人公・山崎の老いた身体だ。シワだらけの顔や首、筋肉が衰え垂れ下がった胸やたるんだ腹、堅さを失った尻。山崎の相手をする20代半ばのレオ(高橋里央)の裸は上半身だけが提示される。彼の身体もまたさほど筋肉質というわけではないが、柔らかさの中にしっかりとした堅さとみずみずしさが存在するのはスクリーンを通しても明らかだった。「若い頃の僕は自分が痛めつけられる姿に酔っていた。でも、いつからかそうはならなくなった」という台詞が示すように、山崎は自己陶酔に溺れることで、痛みを経路に快楽を得てきた。「いつからか」という言葉には、時間によって残酷にも奪われた自己の美しさへの切望さえも感じられた。

 

 もう一つ面白かったのは横顔への視線だ。レオの横顔に対する視線は似顔絵と具現化されていたし、湖面に映る自分の顔を見つめるナルキッソスもまたその横顔が絵画に描かれている。作中には、登場人物を正面から捉えるショットはもちろんあったが、横顔を捉えたショットの方も多かった気がする。男性の美しい表情、しかも性的欲望を受け止める客体化された身体としての横顔は、木下惠介映画に登場した佐田啓二が担っていたものと共通する点もあり、男性の美しさ、若さの美しさへの羨望という意味で映画史的/絵画史的な連続性を辿ってみても面白いだろうなと思った。

 

 あと、ドラァグクイーンのマーガレットさんが1990年代の映画で狂気的なゲイ男性を扱う作品を挙げていたが、その辺の歴史に関してはB. Ruby Rich、Alexander Doty、Richard Dyerによる批評を読むといいだろう。

 

 老化した身体とセクシュアリティについては、最近出版された下記の書籍が勉強になった。

Sexuality, Disability, and Aging: Queer Temporalities of the Phallus

Sexuality, Disability, and Aging: Queer Temporalities of the Phallus

 

 

 

 

 

 

 

 

英単語 2019年2月7日

straddle: 両足を広げる、またを広げて立つ

adduce: (〜を)(例証として)挙げる、提示する

reminisce: 追憶する、思い出を語る

rampant: 激しい、流行する、自由奔放な

sediment: 沈殿物、おり

indignant: (不正や卑劣な行為に対して憤慨することを表して)憤った、怒った

precarity: 予測できない、または不安的な状態

furtive: ひそかな、こそこそする、内密の

英単語 2019年2月6日

actualize: 現実化する

look askew at: 斜めから見る

putatively: 推定的に

smaciation:憔悴

sublimate: (望ましい行為に)転化する、昇華する

acquiesce: (不本意ながら文句を言わないで)(-に)同意する、黙って従う

ineffable: 言いようのない

congeries of: 〜の集積

decidely: 明らかに

surreptitiously: 人目を忍んで行う

sero-converted: 抗体陽転する

epiphenomenon: 付帯兆候

International Symposium: Excavating Queer Memories through Visual Media and Archive

This week on the 18th of January, we are welcoming filmmaker/ producer Mr. Stu Maddux from the GLBT Historical Society in San Francisco and film scholar Prof. Mitsuyo Wada-Marciano from Kyoto University to our international symposium "Excavating Queer Memories through Visual Media and Archives." Mr. Maddux will discuss the background of his film Reel In The Closet and archives of home movies by LGBTQ people, Prof. Wada-Marciano will give an overview of film archives in Japan, and I will speak about employing the concept of "cruising" as a possible method of exploring gender/ sexuality related collections at the Tsubouchi Memorial Theatre Museum by introducing previous attempts by curators and scholars overseas.

 

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シネマ歌舞伎『ふるあめりかに袖をぬらさじ』

 今日は東劇で歌舞伎演目『ふるあめりかに袖をぬらさじ』のシネマ歌舞伎版を観た。生で演目を観たことがないので比較はできないが、今まで観てきた歌舞伎演目の中で一番面白かった。ライブや演劇のライブビューイングに加えて、ゲキ×シネのように撮影・編集済の演劇を映画館で上映するものもあり、今回のシネマ歌舞伎もその形態の一部にあたるだろう。

 


シネマ歌舞伎『ふるあめりかに袖はぬらさじ』

 

 舞台演劇を映像化する場合、役者の表情をクロースアップで捉えたり、ミディアム・ショット程度の大きさで身体を捉えることが多い印象だった。ゲキ×シネの場合、舞台を動き回る役者の身体運動に合わせてパニングやズーミングがあり、カメラワークに動きがある。一方、今日観たシネマ歌舞伎ではクロースアップやミディアム・ショット、ロング・ショットなど映画的構図は多いがカメラワークに目立つ動きはなかった。一瞬、ピントが合っていない場面もあったが、大きな劇場では目視できない歌舞伎役者の表情がスクリーンにアップで提示されることによって、生の歌舞伎舞台とは異なる体験ができるのは間違いないだろう。

 

 面白いと思ったことの一つに、撮影された回のお客さんの声がしっかりと残されていることだ。笑い声や咳払いなど、小さな音まで逃さないほど、鮮明に観客が立てた音が録音されている。歌舞伎や文楽を生で見に行くと、どこで拍手をすれば良いか分からない場面にときどき出会うが、シネマ歌舞伎ではきちんと観客の拍手も含まれているため、歌舞伎初心者が事前に歌舞伎とはどういうものか、どういう場面で拍手をするべきかを学ぶことができる媒体でもある。もちろん、マナーなど知らなくても歌舞伎や文楽は楽しむことができる芸能ではあるが、楽しみ方を知っていれば、より深く演目を味わうことができる。

 

 最後にもう一点。本作の主演は、お園を演じる坂東玉三郎。彼の女形がとにかくすばらしい演目なので、それはシネマ歌舞伎を観て体験してほしいのだが、ここで記しておきたいのは彼の名前がシネマ歌舞伎版の編集に記載されていることだ。坂東玉三郎が実際どの程度編集に関与したかについては調査が必要であるが、主演の役者が編集の位置づけを担っていることは歌舞伎をどのようにスクリーンで再現するかについて、その決定権に大きく関与しているのではないかと思う。主演が編集に関わることについてはさらに考えてみたい。

集中講義「人種、民族とジェンダー」を担当します。

 9月10日から14日までの五日間、都留文科大学で集中講義「人種、民族とジェンダー」を担当することになった。主な履修生は北欧からの大学生らしく、単位互換を円滑に進めるために、授業外にかなりの課題を出す必要があるらしい。僕の授業では1日1本を見せて、その作品を論じている論文を読んだうえで議論をしてもらう予定なので、課題の多くをリーディングでカバーしたいと考えている。

 

今回は課題に出すリーディングのリストを書き留めておく。

 

一日目

Judith Butler. "Critically Queer."

Smith Greg. "'It's Just a Movie': A Teaching Essay for Introductory Media Classes."

Patricia White. "Sketchy Lesbians: "Carol" as History and Fantasy."

 

二日目

Alex Doty. "There's Something Queer Here."

D. A. Miller. "Anal Rope."

Harry Benshoff and Sean Griffin, eds. Queer Cinema: The Film Reader.

 

三日目

B. Ruby Rich. New Queer Cinema: The Director's Cut

Harry Benshoff and Sean Griffin. Queer Images: A History of Gay and Lesbian Film in America.

Michael Aaron ed. New Queer Cinema: A Critical Reader.

 

四日目

Judith Butler. "Gender Is Burning: Questions of Appropriation and Subversion." Bodies That Matter.

bell hooks. "Is Paris Burning?" Black Looks: Race and Representation.

 

五日目

Stephanie Deborah Clare. "(Homo)normativity's romance: happiness and indigestion in Andrew Haigh's Weekend."

B. Ruby Rich. "What's a Good Gay Movie?" New Queer Cinema: The Director's Cut.

 

 

Bodies That Matter: On the Discursive Limits of Sex (Routledge Classics)

Bodies That Matter: On the Discursive Limits of Sex (Routledge Classics)

 

 

New Queer Cinema: The Director's Cut

New Queer Cinema: The Director's Cut

 

 

New Queer Cinema: A Critical Reader

New Queer Cinema: A Critical Reader

 

 

Queer Cinema, The Film Reader (In Focus: Routledge Film Readers)

Queer Cinema, The Film Reader (In Focus: Routledge Film Readers)