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No Rainbows, No Ruby Slippers, But a Pen

本ブログでは研究関連で読んでいる書籍、(新作)映画作品の紹介、日々の考察を中心に共有していきます。また、漫画、アニメ、小説、写真などについても感想などを述べていけたらと思っています。

『小野寺の弟・小野寺の姉』(西田征史、2014年):向井理の演技について思うこと


映画「小野寺の弟・小野寺の姉」予告編 - YouTube

 

西田征史監督・脚本の『小野寺の弟・小野寺の姉』(2014年)が本日から公開されている。公開初日、映画館で初回を観てきたのだが、姉弟を演じる片桐はいり向井理のやりとりに心温まる作品だ。映画が終わる頃には、炊きたてのご飯を食べたくなるだろう。

 

本作の構想には5年を費やされている。その間に、向井理は『ゲゲゲの女房』など多数のドラマや映画作品に登場することで、演技力を積み上げていった。同時に、『かもめ食堂』や『あまちゃん』に出演し、片桐はいりもコメディアンヌ女優として歩んできた。5年間の間に二人は共演することがあったが、この二人が姉弟を演じると知った時、どのような作品になるのだろうと大変興味が湧いたことを覚えている。

 

本作の監督は西田征史。彼が映画脚本を担当したのは2006年の『ガチ☆ボーイ』が初作品であり、そこで向井と出会っている。『怪物くん』、『妖怪人間ベム』、アニメ『TIGER & BUNNY』などヒット作品の脚本を手がけ、2013年にはオリジナル脚本で舞台版『小野寺の弟・小野寺の姉』を演出している。舞台版でも姉弟として共演した向井と片桐が引き続き映画版でも、仲の良い姉弟として登場する。

 

こんなことを言えば向井理ファンに怒られそうだが、向井理は演技のうまい俳優であるとは言いがたい。向井が現在のようにイケメン俳優として世間から一定の人気を築きる前から、つまりは彼のデビュー作品から現在まで彼が出演しているテレビ、映画作品を観てきた筆者として、彼はテレビドラマ向きの俳優ではないという印象を持っている。彼が出演した舞台版『小野寺の弟・小野寺の姉』は未見だが、彼の俳優としての魅力は映画作品を通してこそ、観客に伝わるのではないか。

 

観客が向井に惹きつけられる要素は、彼の声と表情だ。向井の声は常に低音であり、あまり抑揚を感じさせない。彼のインタビューを見ていると、向井は会話の途中、時々目をそらし、次に話す言葉を十分に考えてから発している。そうすることで、彼の音声は安定さを保たれている。低音の音声を保つことは彼の演技にとって重要であり、それを生かすことで、彼が演じる人物の心情が表現される。『新しい靴を買わなくちゃ』(2012年)や『きいろいゾウ』(2013年)での演技にも同様のことが言える。監督の西田征史は、向井理のこうした低音発声の魅力をいっそう高める演出を知っている。片桐はいり演じる姉が、弟の前でしか見せない笑い方があるように、向井演じる弟もまた、家という空間、姉と一緒にいる空間でしか容易に見せない声の多様性を持っている。この点については本作を見て確かめてほしい。

 

向井の演技にとって、顔の表情はもう一つの魅力である。イケメンと呼ばれるだけあって、彼はとても整った顔をしている。そして、180を超える身長は彼の武器である。高身長かつ小顔と呼ばれる向井の容姿に惚れる観客は多数いる。また、彼のこういった身体的スペックと話題性に惹き付けられた、映画やドラマの製作者は彼を多数の作品に出演させてきた。だが、彼の容姿のみを魅力として向井を起用している作品において、たとえそれが映画作品であろうと、彼の演技はお世辞にも良いとは言えない。向井は佐藤健のようなダンス的鋭敏さをもった身体運動をこなす俳優でもなく、『TOKYO TRIBE』や『HK/変態仮面』で肉体美を見せる鈴木良平のような筋肉質俳優でもない。向井の魅力は顔の表情だ。口角のあがった笑顔、目頭のしわ、心情により多様に変化する目。彼の表情の魅力が本作において存分に生かされている。片桐はいりの表情と比較すると、二人は本当の姉弟なのではないかと思えてくるから不思議だ。

 

声と表情という二つの要素はなぜかテレビドラマだと存分に生かされていないように思う。それはおそらく、話題性のみに飛びつき、視聴率をあげるという意図で向井を起用している製作側に原因があるのかもしれない。現在のテレビドラマ製作と映画製作の現場事情を把握しなければ下手なことは書けないが、向井は単なるイケメン俳優ではない。俳優として彼を生かすことができる製作環境と脚本があれば、彼の演技力はもっと向上するのではないだろうか。「向井理論」といった大それたものは書けないが、今後も彼が出演する作品を注目していきたい。

 

小野寺の弟・小野寺の姉

小野寺の弟・小野寺の姉