No Rainbows, No Ruby Slippers, But a Pen

本ブログでは研究関連で読んでいる書籍、(新作)映画作品の紹介、日々の考察を中心に共有していきます。また、漫画、アニメ、小説、写真などについても感想などを述べていけたらと思っています。

Summer Vacation (Hofesh Gadol, dirs. Tal Granit, Sharon Maymon, Israel, 2012)

 

現在MUBIにアップされているSummer Vacation(Hofesh Gadol、2012)という映画を観た。監督はTal GranitとSharon Maymonで、イスラエル資本の作品。IMDBによれば、2012年から2014年にかけて、イスラエル、アメリカ、ポーランド、フランスの映画祭に出品されている。この二人の監督の共作としては、『ハッピーエンドの選び方』やThe Farewell Partyという作品もある。

 

Sharon Maymonについて:

http://www.imdb.com/name/nm2321422/bio?ref_=nm_ov_bio_sm

Tal Granitについて:

http://www.imdb.com/name/nm2318954/

 

本作品は22分ほどの短編なので、複雑な物語構造にはなっていない。主人公のYuvalは家族であるビーチへ旅行に来ている。息子と娘に砂浜に埋められたYuvalへ妻Michaelaとキスし、それを見た子供たちが照れる、という定番の家族描写が展開した後、砂浜に波が押し寄せてきて、Yuvalが溺れそうになる。

 

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そこへ助けにきてくれた男とYuvalの間に短い切り返しが挿入される。この切り返しは何を意味するのか?

 

助けてもらったお礼にMichaelaはその男と連れの男をディナーへ招待する。その男の名前は、Yiftachで連れの名前はNoam。二人が付き合っ ていることがすぐに分かる。彼らの登場にYuvalは落ち着かない様子を見せる。このシーンでも、YuvalとYiftachの間に切り返しが何度を展開 させつつ、MichaelaやNoamが彼らを見つめるショットが挿入される。ディナーの途中、Yiftachの電話が鳴ると、Yuvalと Michaelaの思い出の曲が流れる。それに合わせて踊るYiftachとMichaelaを見つめるNoamは、携帯電話の液晶に映ったYuvali という名前を見てハッと気づき、その場を去る。

 

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ビーチから少し離れたところに小島があり、その空間において初めてYuvalとYiftachが付き合っていたことが明かされる。観客はここまで待たなく ても勘づくことなのだが、Yuvalの家族がいるビーチという空間から離れている空間だからこそ、YuvalはYiftachに近づくことができる。た だ、この小島は誰からも見ることのできるオープンな空間であるため、自分の気持ちに正直になることはできない。オープンな空間で同性の恋人と一緒に堂々と いるYiftachとの対比がなされる。

 

実際、屋内という閉じられた空間であればYuvalはYiftachに求愛する。自 身に秘めたYiftachへの気持ちをYuvalは徐々に抑えられなくなるのだが、それはYiftachも同様で、ビーチでMichaelaにサンオイル を塗りながら、妻子を持ったYuvalによく似た男に恋をしていると告白する。その場にYuvalもいて、Yiftachの告白にびくびくしながら、妻の 反応をうかがうシーンの緊張感はなかなか良い。

 

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再び小島へ泳ぎ着く二人。Michaelaに全てを話すとビーチへ泳ぐYiftachにYuvalは水面下でヘッドロックをかける。苦しそうな Yiftachをカメラは映す。このような描写は幾度と観てきた気がするが、ここで描かれる暴力は水面下の空間で二人に許容された、最後の愛撫を描いてい るとも理解できないだろうか。ビーチへ一人で辿りつくYuval。彼の首筋と二の腕には引っかき傷がある。不安そうな顔を浮かべるMichaela(観客 も、YuvalがYiftachを殺してしまったのではないかと不安になる)。Yiftachが少しして、Michaelaの隣に座ることでその不安は解 消されたように思われるが、Yiftachの告白の直後に二人が小島へ去り、そして傷だらけになってYuvalが戻ってくる、という展開の後、Yuval とYiftachの関係にMichaelaが気付いていないわけがない。Michaelaにカメラの焦点が当てられていることからも明らかである。

 

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最後のショットは、夕日を眺める三人を後ろから映したショット。ロングショットで撮影されることによって、ビーチ、海、そして小島という三つの空間が大きく区画化されているだけでなく、パラソルの軸(足?)によって、YiftachとYuvalの間に距離が置かれていることが強調される。同じパラソルの傘の下にいながらも、二人は肩を並べて座ることができない。パラソルがYuvalとMichaelaが座る左側に傾斜しているのは、Yiftachとの関係よりも、Michaelaとの関係を重要視するYuvalの精神状態の表れと読むこともできる。ただし、下の画像からも明らかなように、画面はYiftachの座る右側、パラソルの中心から右側に向かって開放的な構図になっている。内面化する同性愛嫌悪によって自らを異性愛規範に押し込められるYuvalとそのパートナーMichaelaが占める空間の比率は極めて小さく、窮屈に見える。このシーンでは、YuvalとMichaelaの思い出の曲が再び流れるのだが、その曲がYuvalとYiftachの思い出の曲であったことは言うまでもない。

 

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