No Rainbows, No Ruby Slippers, But a Pen

本ブログでは研究関連で読んでいる書籍、(新作)映画作品の紹介、日々の考察を中心に共有していきます。また、漫画、アニメ、小説、写真などについても感想などを述べていけたらと思っています。

京都大学映画コロキアム「白に引き寄せられるハリウッド――ホワイトウォッシング、アロハゲート、中国的特徴をもったハリウッドのはじまり」の感想

2017年11月17日、香港大学のAaron Han Joon Magnan-Park 氏による講演が京都大学映画コロキアムで開催されたので聞きに行ってきた。題名は以下の通りで、近年のハリウッド映画に見られるホワイトウォッシングや、原作ではアジア人のナラティヴが白人によって乗っ取られていること、さらには中国本土がハリウッド映画の興行収入にとって最大のマーケットに近い将来なっていくことなどについてのお話だった。

 

"Leukocentric Hollywood: Whitewashing, Alohagate, and the Dawn of Hollywood with Chinese Characteristics"

白に引き寄せられるハリウッド――ホワイトウォッシング、アロハゲート、中国的特徴をもったハリウッドのはじまり」

京都大学映画コロキアムの最新情報はこちらから https://sites.google.com/site/kyotofilmcolloquium/home/upcoming-events  )

 

講演で取り上げられた作品は、Aloha (Cameron Crowe, 2015), Doctor Strange (Scott Derrickson, 2016), Ghost in the Shell (Rupert Sanders, 2017), Birth of the Dragon (George Nolfi, 2016)、以上四本だ。それぞれの作品に関する分析は、それぞれが公開された時に映画批評誌やSNSで問題視されていたことのおさらいのような印象を受けたので、あまり新しい情報は得られなかったのが少し残念だった。とりわけGhost in the ShellAlohaの主人公の人種問題については、観衆がある程度の前情報を持っていると前提してもっと深掘りして欲しかった。

 

質疑応答の時間、僕は二つ質問した。一つは、中国本土をマーケットとしたブロックバスター映画の製作・公開について、Magnan-Park 氏がWorld of Warcraft(Duncan Jones, 2016)の成功に言及していたから、映画公開以前から中国本土に存在したゲーム版の人気とプレイ人口と映画成功の関連についてどう分析するかを聞いた。この点に関しては、アメリカ国内と中国での興行やチケット売買の仕組みを引き合いに出しながら、詳しく説明してくれた。

 

もう一つは、セクシュアリティの問題にも共通するが、役者の人種と役柄の人種がマッチすることで担保される(とされる)人種の真正性のレベルは、映画作品の成功に実際どれくらいの影響を与えるのかについて質問した。「難しい質問だ」という返事。セクシュアリティに関しても、おそらく判断は難しいのではないかと僕も思う。この質問に加えて聞いたのは、ホワイトウォッシングやキャスティングの問題を解決するために、映画の研究者や大学院生は今後どういう取り組みを行うべきと提案されるか?と聞いた。この点に関しては、スパイク・リーを例に、コミュニティベースで監督、役者、作品をサポートすることが重要だと考える、と返答があった。

 

最後の点っておそらくすごく重要で、同志社大学の菅野優香先生が映画祭研究を通して提案されていることにも通じている。コミュニティビルディングの大事さ。LGBTを扱う映画に対して、あれはゲイっぽくない、レズビアンぽくない、トランス女性/男性っぽくない、と言うのは簡単だが、作品それぞれが抱える問題を直視しつつ、同時にその作品の良さもきちんと考える必要があると改めて思った。ただし、それは両手放しで何でも褒めるということと同義ではないだろう。