No Rainbows, No Ruby Slippers, But a Pen

本ブログでは研究関連で読んでいる書籍、(新作)映画作品の紹介、日々の考察を中心に共有していきます。また、漫画、アニメ、小説、写真などについても感想などを述べていけたらと思っています。

シネマ歌舞伎『ふるあめりかに袖をぬらさじ』

 今日は東劇で歌舞伎演目『ふるあめりかに袖をぬらさじ』のシネマ歌舞伎版を観た。生で演目を観たことがないので比較はできないが、今まで観てきた歌舞伎演目の中で一番面白かった。ライブや演劇のライブビューイングに加えて、ゲキ×シネのように撮影・編集済の演劇を映画館で上映するものもあり、今回のシネマ歌舞伎もその形態の一部にあたるだろう。

 


シネマ歌舞伎『ふるあめりかに袖はぬらさじ』

 

 舞台演劇を映像化する場合、役者の表情をクロースアップで捉えたり、ミディアム・ショット程度の大きさで身体を捉えることが多い印象だった。ゲキ×シネの場合、舞台を動き回る役者の身体運動に合わせてパニングやズーミングがあり、カメラワークに動きがある。一方、今日観たシネマ歌舞伎ではクロースアップやミディアム・ショット、ロング・ショットなど映画的構図は多いがカメラワークに目立つ動きはなかった。一瞬、ピントが合っていない場面もあったが、大きな劇場では目視できない歌舞伎役者の表情がスクリーンにアップで提示されることによって、生の歌舞伎舞台とは異なる体験ができるのは間違いないだろう。

 

 面白いと思ったことの一つに、撮影された回のお客さんの声がしっかりと残されていることだ。笑い声や咳払いなど、小さな音まで逃さないほど、鮮明に観客が立てた音が録音されている。歌舞伎や文楽を生で見に行くと、どこで拍手をすれば良いか分からない場面にときどき出会うが、シネマ歌舞伎ではきちんと観客の拍手も含まれているため、歌舞伎初心者が事前に歌舞伎とはどういうものか、どういう場面で拍手をするべきかを学ぶことができる媒体でもある。もちろん、マナーなど知らなくても歌舞伎や文楽は楽しむことができる芸能ではあるが、楽しみ方を知っていれば、より深く演目を味わうことができる。

 

 最後にもう一点。本作の主演は、お園を演じる坂東玉三郎。彼の女形がとにかくすばらしい演目なので、それはシネマ歌舞伎を観て体験してほしいのだが、ここで記しておきたいのは彼の名前がシネマ歌舞伎版の編集に記載されていることだ。坂東玉三郎が実際どの程度編集に関与したかについては調査が必要であるが、主演の役者が編集の位置づけを担っていることは歌舞伎をどのようにスクリーンで再現するかについて、その決定権に大きく関与しているのではないかと思う。主演が編集に関わることについてはさらに考えてみたい。