No Rainbows, No Ruby Slippers, But a Pen

本ブログでは研究関連で読んでいる書籍、(新作)映画作品の紹介、日々の考察を中心に共有していきます。また、漫画、アニメ、小説、写真などについても感想などを述べていけたらと思っています。

2022.11.17

 東京出張帰りの新幹線で書いている。今回は法政大学の映画学授業でゲスト講義に呼んでいただき、『劇場版 きのう何食べた?』における「健康的な」老いと食事の関係について、サクセスフル・エイジングの視点から考えてもらう講義を行った。スライドを準備し過ぎてめちゃくちゃ長い間喋ってしまったのが悔しい。学生からの意見をもっと聞けるように授業設計した方がよかったよな。

 今回の東京滞在中、映画を三本観た。新宿ピカデリーで『すずめの戸締り』、ポレポレ東中野で『たまねこ、たまびと』、神保町シアターで『喜劇 にっぽんのお婆あちゃん』。『喜劇 にっぽんのお婆あちゃん』はずっと観たくて、国立映画アーカイブに上映を依頼したいと考えていたくらいだったから、映画館で、しかもフィルム上映で見られたのはめちゃくちゃ嬉しかった。『たまねこ、たまびと』もすごくおすすめしたい作品。

 


www.youtube.com

 

  明日は一週間ぶりにオンライン読書会に参加する。僕の担当会で、LGBTQ Film Festivals: Curating Queernessという本を読む。

 

2022.10.02

 早くも10月になってしまった。今年もあと3ヶ月しかない。10月は半ばに口頭発表を二つ控えているため、毎日少しずつでも書いた方が良い。並行して、新書の原稿(ほんとすみません)と新作映画の宣伝原稿も二本書かないといけない。睡眠時間はあまり削りたくないから、起きている時間は仕事に全振りした方が良さそうだ。授業も始まるし、さぁ〜大変だぞ。

 今日は溜まっていた段ボールを原稿執筆の合間に処分した。新しく買ったカッターがとても切り心地が良く、すいすいと作業が進んで楽しかった。作業の結果をすぐに目視できる点は、こういう作業のいいところよね。執筆は2000字くらいしか進まなかった。亀のような遅さだが、着実にやっていこう。

 そういえば昨夜映画館で観た『川っぺりムコリッタ』(荻上直子、2022)がとても良かった。人間の身体も映画空間の中にある一つの空間なんだと気付かされた。おすすめ。

 


www.youtube.com

 

 

 

『ユリイカ』2022年10月号 セリーヌ・シアマ特集へ寄稿しました。

 本日、9月27日に発売の『ユリイカ』2022年10月号 セリーヌ・シアマ特集へ、論考「娘と母の、味蕾の向こう——『秘密の森の、その向こう』にみる少女たちの食事」を寄稿しました。9月23日から全国公開中のシアマ最新作『秘密の森の、その向こう』を食事の観点から読み解くものです。書店や図書館で見かけたら、ぜひご笑覧ください。

 

 

常勤ポストを得るまで

 今回は大学院から大学での専任ポストを得るまでの経験をまとめる。修士号や博士号を取得後、大学や他の研究機関だけが就職の候補先として挙げられるべきではなく、その点は今後さらに改善していった欲しいと願っている。ただ、僕自身は大学という場所が好きだったこともあり、大学教員以外の職種はあまり考えてこなかったので、その辺については特に共有できる経験はない。だいぶ前に書いた記事であるため、情報が古かったりするだろうし、分野が違えば全く流れも異なると思う。僕自身が経験したものだから、一例として読んで欲しい。

 

1.大学院での経験

 2012年に入学した大学院では映画学を専門に、ホームムービー(修士課程)と戦後日本映画(博士後期課程)を主な研究対象とした。僕が所属していた京都大学大学院は関西で映画研究を行う環境として候補の一つに入る場所だったこともあり、図書館やデータベースへのアクセスだけでなく、研究室内での情報交換を比較的実践しやすい利点が複数あった。

 その利点の一つが修士1年(M1)時点で日本学術振興会特別研究員の選択肢について知ることができた点だろう。学部はアメリカの州立大学だったので、学振についてはリサーチ不足で全く知らなかった。修士課程以降のことは進学時点ではしっかりと考えていなかったため、特別研究員のポジションを得られれば、博士後期課程に進学できるかもしれないというモチベーションにはなった。現在ならSNSを使ってより簡単にインターネット上で情報収集ができるようになっているだろうから、申請書などを共有してもらえる機会は増えているかもしれない。

 

専門の幅と言語

 M1時点で得られた助言の中で、今振り返るとその効果が非常に大きかったと考えられるのは、専門に幅を持たせるということだ。

 研究テーマの関連で、研究室出身者ですでに大学で専任ポストを得ている方とフィルム調査に参加する機会があった。僕はもともとホームムービーの研究をしていて、ジェンダーセクシュアリティについても関心があるから、その観点からもホームムービーについて調査したいと帰りの電車で何気なく話をしていた。その際、将来的に大学の教員ポストに就きたいのであれば、主軸となる専門とそれを支えるための引き出しを複数持っておいた方がいいと助言を受けた。

 僕の場合は、ジェンダーセクシュアリティへの関心から始まり、結果として、博士論文ではクィア映画やクィアスタディーズの先行研究を使うことへ拡大することとなった。日本には映画研究やメディア研究のポスト自体が少ないので、特にジェンダー研究に関しても知識があり、授業ができますとアピールできたのは博士後期課程修了後の非常勤講師、任期付助教、専任へと繋げていく過程で非常に大きい意味を持っていた。

 言語については、研究対象や地域と関わる言語で論文なり、何かしらの業績を上げておくといいかもしれない。僕の場合は日本語と英語でしか読み書きはできない。だが、映画学ですぐにポストはないと想定して、言語科目で非常勤が得られたらと思い、英語でも論文を書き、博士後期課程修了時点で英語論文は3本あった。今考えると少ないが、これが博士号取得後の非常勤ポストを得るのに非常に役立った。非常勤講師を雇用するにも会議が必要で、その際に雇用予定の非常勤講師にいくつ英語論文があるかが問われると知った。博士後期課程では学部一年生とフランス語の授業にまぜてもらっていたので、辞書さえあれば簡単なニュースくらいなら読めるようになったが、第三言語をマスターすることはできなかった。一日5分でもいいから言語はやっておくといいだろう。

 

情報発信について

 修士課程・博士後期課程において、どのように自分の研究について発信したり、他の人が自分の研究内容にアクセスできるようにするか。まずは、1)リサーチマップ(researchmap)に登録しよう。ここに所属や業績について掲載しておくと、非常勤講師や雑誌寄稿の依頼に繋がる可能性がある。特に非常勤講師の場合、適当な人物を探している時にリサーチマップに情報があると非常に役立つ、と多方面から話を聞いたことがある。

 次に、英語のウェブサイトだが2)academiaも勧めたい。論文、研究ノート、口頭発表スライドなどをアップロードでき、他の人がダウンロードした際に通知を受け取ることもできるだけでなく、自分の関心分野の論文を勧めてくれる時もある。有料版もあるが基本的には無料版で登録しておけばいい。academiaを勧める理由は、academia経由で論集やジャーナルの特別号などへの寄稿依頼が届く可能性があるからだ。僕自身、英語圏のジャーナルへの寄稿依頼を受け、そこでの査読プロセスを経て博士論文の一部になった論文がある。もちろん、何も依頼が来ない可能性もあるが、研究を発信し続けることは重要だ。ハゲタカジャーナルからの誘いにだけは気をつけよう。3)Twitterも活用するといいだろう。しかし、精神的にしんどい時や寝る前は全くオススメしない。

 

査読誌へ投稿する

 業績を上げろと言われても、どこに出せばいいんだ。そう思ったことがある学生もたくさんいるだろうし、僕自身もいつもそう思っている。学会費が安い学会であれば継続して支払えるだろうが、1万円の学会費を学生として払えるか?と聞かれると難しいと答える人も多いだろう。論文を出す媒体を探すのにオススメするのは、自分の専門に近い研究者がどのような媒体で書いているのかを調べ、リスト化することだ。その際、『ユリイカ』など基本的に媒体から依頼がないと書けないような媒体を探すのではなく、学会誌や紀要など、条件さえ満たせば論文を出せる媒体を探そう。

 例えば、学会で気になった発表者のホームページなどを覗けば、既出論文の掲載媒体が分かる。その情報をリスト化し、投稿条件を満たしているものを選び、1年間のスケジュールでどの時期に論文を出すのかを計画しよう。査読には数ヶ月かかるから、博士号申請に必要な論文数を把握したうえで投稿スケジュールを立ててみてはどうだろうか。僕は大体口頭発表でフロアから得たフィードバックをもとに改稿し、論文投稿していた。経済的に余裕があれば博士課程に許される限り在籍できるだろうが、それが可能な人はそうそういない。

 

 日本文化や日本映画・テレビドラマを研究している大学院生なら、以下の査読誌に挑戦してみてはどうだろうか。

・日本映像学会『映像学』(3月中旬、9月中旬)

日文研『日本研究』(5月中旬)

・日本映画学会『映画研究』(7月初旬)

表象文化論学会『表象』(9月初旬〜中旬)

・Arts

・Journal of Japanese Studies

・Journal of Japanese Cinema and Korean Cinema

・Japan Forum

・Journal of Cinema and Media Studies

 

授業料免除の申請について

 大学院での後悔はいくつもあるが、その一つに修士課程の時の授業料免除がある。修士課程入学前は京都のゲストハウスで働き、修士課程分の授業料を貯めてから進学した。授業料はそのまま支払ってしまったので、免除か減額についてもっと調べれば良かったなと今でも悔しく思うことがある。

 日本学術振興会特別研究員(DC1)になると独立生計として授業料免除に申請することができる。授業料免除申請の際、親の所得や連絡先を問われる。僕の場合は、親と音信不通状態なので疎明書を別途提出して、親との関係は一切ない点を強調することで余計な詮索を回避した。

 

2.研究を継続すること

 2017年から2018年の1年間は複数の大学で非常勤として教えていた。その間、JREC-INを使って就職情報を探し、専門に当てはまりそうなポストに複数出していた。一つ後悔があるのは、博士後期課程を修了する年度から始めておけばということ。「博士号取得見込」でも応募可能なポストはときどきあるので、博論提出のタイミングなどを考慮しつつ、応募を検討しても良いかもしれない。

 非常勤講師としては、前期に2コマ、後期に7コマ担当していた。語学科目がほとんどで、後期だけ映画学に関係する集中講義を担当した。初めての授業担当はとても楽しかったし張りきっていたのだけれど、正直なところ、この1年間は結構精神的にしんどかったのを覚えている。その大きな理由はやはり金銭的なもので、税金の支払いが収入をはるかに超えていて、ひどくくすぶっていた。非常勤の担当だけでは生活できないから、貯金を崩したり、ゲストハウスでの清掃や家庭教師としてアルバイトもたくさんやった。

 生活はきつかったが、ポストへ応募するためには業績を上げなければならない。種まきの1年間として複数の口頭発表を国内外でやった。経済的余裕がないのに、韓国とカナダの学会へ行ったのはかなり無理をした。だが、種まきの結果は(今頃)少しずつ芽吹いてきているので、積極的にやって良かったとは思う。ただし、ポストに応募する際は口頭発表よりも断然査読論文が重要だと言われているので、口頭発表をやったら、すぐにどこかの査読誌へ投稿する方がいい。1回目で査読に通らなくても、査読結果を使って改稿して他のところへ投稿することもできる。

 この時期に出した公募は一つをのぞいて全て書類選考で落ちた。特別研究員PDも面接で落ちてしまったが(2回)、唯一面接に進んだ任期付助教のポストを得ることができたのが幸いだった。この時期に得た助言で今も思い出すものがある。

・何があっても腐らない(経済的に苦しい時は難しいが、楽観的であることは研究を続ける上で重要だ、という文脈だったと思う)。

・ポストが得られたら何でもいい、というわけではなく、社会保障などがしっかり明記されているところを優先する。

 

3.Day1から始める

 2018年度から3年の任期付助教として早稲田大学演劇博物館へ着任した。国内で映画研究をしている場合、演劇博物館と国立映画アーカイブ(旧フィルムセンター)は就職先として名前を頻繁に聞く機関だろう。僕もそのうちの一人だった。他の博物館にも応募を出したことがあるが、学芸員資格がないため該当しないと回答を頂いたことがある。なので、もし学部や大学院で学芸員資格を大きな負荷なく得られるのであれば、取得を目指すことを検討しても良いだろう。

 任期付ポストに就いている場合、定められた任期が切れる前から積極的に公募に出すべきだ。例えば3年間の任期だとしたら、3年目になってから公募を探し出すのではなく、特にそのポストに更新の可能性がないのであれば、任期開始1ヶ月目から公募に出し始めるべきだ。もし任期付のポジションに対して研究よりも事務仕事を優先するのが当然だ、というような環境ならば、給与への恩義は感じたとしても「次のポジションを探すことを遠慮する」ことは絶対にしてはならない。

 僕が京都から東京へ移る前にある人から受けた助言が「任期付きであればDay1から次を探し始めなさい」というものだ。この助言を信じて、週日は決まった時間にJREC-INの新規公募を分野とキーワードでチェックし、2ヶ月に一つくらいのペースで公募に出していた。

 よく言われている通り、公募書類はそれぞれの大学や研究機関で様式が異なることが多く、一つ出すのに時間とお金がかなりかかる。お金は本当にたくさんかかる。だから何でもかんでも出さずに、自分の専門分野(書いたことのある論文や新規の研究関心)や能力(事務能力、シンポジウムや研究会の運営経験など)と合っていそうなものを厳選していた。そのため、出した公募は15未満で、1つをのぞいて全て書類選考で落ちた。

 

4. 書類選考

 面接に進むことができたのは任期付助教をのぞいて現職のみだ。そのため、以下に書くことが一般的に有効かどうかは全く分からないのだけれど、一例として誰かの参考になればいい。

 現職の公募締め切りは2020年1月末必着だった。2018年度以降に出した公募の中で唯一、ほとんどの資料をデータで送る形式だったのを覚えている。履歴書・業績一覧・業績データ・教育/研究活動についての所信表明が求められていた。提出書類の中で一番気をつけたのが、「教育/研究活動についての所信表明」だ。気をつけたのは2点。まず一つは、現職が英語圏の文化研究や英語教育に携わる教員を求めていることから、日本語・英語どちらでも良かった所信表明は英語で書いて、何度も音読して推敲した。頼りになる英語話者がいれば読んでもらうといい。応募者の中には英語が母国語の人もいるだろうから、勝負をするなら英語だろうと判断した。

 もう一点は、研究よりも教育活動について比重を置くように意識したことだ。フリンダース大学のタラ・ブラバゾン教授が以下のvlogで強調するように、大学教員は学生への教育によって賃金を得ている。現職で求められているのは、研究はもちろんだが、どうやって教育に力を入れ、学生の知的経験に奉仕・貢献(service)するかの方だと考え、教育面を強調した。

 

 面接対策には下記のvlog5を何度も視聴した。


Vlog 5 The early career academic interview


Vlog 172 - The first academic job


Vlog 224 - Becoming a lecturer

 

 書類選考の結果は3月半ばまで来なかった。それまで徹底的に書類選考で落ちていたので、3月初旬になっても何も連絡がなかった時点で諦めていたから、心底ホッとした。選考では、英語での模擬授業と日本語・英語での面接が求められていた。しかし、専任ポストの面接はこれが初めてだったため、同年代の研究者に面接対策について相談し、資料を共有していただけたのは精神的にかなり助けられた。この場を借りて改めて感謝申し上げたい。

 

5. 面接対策

 面接の候補日を設定し終えた時点で、以下のような模擬授業・面接対策を行った。

 

模擬授業の構成・対策

  模擬授業は、特定の専門科目一回分を凝縮して20〜30分で行うというものだった。専門科目については大学ウェブサイトでシラバスを検索して、どういった枠組みが求められているのかを理解した上で、所信表明で書いた内容を発展する形で一般教養かつ専門知識を身につけられるような内容が必要なのだろうと考えて対策した。

・原稿を書いて、それをもとにしたパワポを作った。

・徹底的に練習

 

面接準備:面接の場にいるであろう教員について調査する

 面接会場に何人の面接官がいるかは把握できなかったので、所属する学部とコースの教員の名前と顔を大学HPなどで調べて、徹底的に覚えた。同じコースの教員に関しては、もしかすると何かしらのコラボを求められることもあるかもしれないと想定し、直近の論文でアクセスできるものは全て読んだ。また、他の学部に所属する教員で自分と専門や関心が重なりそうな方がいないかを調べ、その方たちの専門や大学内の活動についても勉強した。名前と顔を把握していると、面接前後や面接中に「〜先生」と認識できるので相手の「おっ」という顔が見える。この対策はかなり効果的だった。

 ただし、教員公募に携わる教員は同じ学科の教員だけではなく、多数決で決められる場合もあると学んだので、公募の分野に合わせて、できれば学科だけでなく、学部全体を見通した方が良いと思う。

 

6. 面接当日

 模擬授業

23分くらい

 

面接内容

・模擬授業の内容に関する質問を数点

クィアの観点からエイジングを研究するとはどういうことか?

・専門は日本映画だが、英語圏の作品も教えられるか?

ジェンダーに関する授業で、映画以外に何をテーマにできるか?

・これまでの授業経験について

→英語メインで教えることはわかっていたため、非常勤の経験を中心に答えた。

・どういう授業をやってみたいか?

→いくつか想定していた授業があり、そのうちから2つ簡潔に答えた。

・留学の指導はできるか?

・(英語での)卒論指導はできるか?

・他分野の教員とコラボレーションできるか?

・実務作業はどうか?

→実務経験はない。就職できたらしっかり覚えるので指導して欲しい。

・職位について(講師、准教授、教授)

→選べる立場にないため、「講師でも構わない」と答えた。

科研費の取得状況について

→面接前日に若手研究の採用が決まったため、その点を面接で伝えた。大学に間接経費が入るので外部資金の有無は大切。

・任期や勤務開始時期について

・質問はありますか? 

→「学生はどういう教員を求めているか?」と質問した。

 

7. 採用に至るまで

 こういうケースもあるんだよ程度で読んでいただきたいのだが、面接後の内定通知は大学から金沢駅へ向かうまでのバスの中で受けた。時間にして大体1時間以内程度だったように思う。10月採用の公募だったため、大学の方も焦っていたのかもしれない。

 最初に受けたオファーは「5年間の任期付き講師」のポジションだった。任期中に審査を受けて、審査が通ればテニュアを得るというやつだ。「任期ありか...」と正直思ったが、若手研究者としてはありがたいオファーだったのですぐに受けることにした。

 その後のスケジュールとしては以下のような感じだった。

----------------------------------------------------------

4月 

・面接から一週間以内にそれまでの業績の現物を大学まで送る。

・その際にポジション「任期付き講師」についての再確認があった。

・COVID-19の発生初期で大学がバタバタしており、郵便物の確認に時間を要した。

5月

・特に何もなし。この間に採用に向けた会議が進められていた。

6月

・採用候補者として決定されたと通知があった。

・教育業績表の訂正などが求められた。

・選考委員会として職位を「任期付き講師」から「准教授」へ変更するために、書籍の業績が欲しい=当時作成していた編著の台割を送ることで解決した。

・准教授として採用する方向性が決定。

7月

・准教授としての採用が正式に決定。

・この時点で正式に当時勤めていた演劇博物館へ報告。2021年3月までいてもらわないと困るということだったが、担当していた企画展を最後までやり通す条件で割愛をしてもらえることになった。

・担当授業についてシラバス作成の連絡があった。前任者からのゼミ所属の引き継ぎも連絡あり。

8月

・担当する大学院科目の決定。

・人事課から採用に関する手続きについて連絡が来るようになる。

・金沢での住居を決めるために給与形態について人事課に問い合わせして、快く教えてもらえた。提示された条件を参考に不動産屋と交渉して契約。

・宮城での集中講義があったため、割とバタバタしながらの準備が続く。

9月

・人事課および担当コース長との連絡を継続。そこまで頻繁ではなかったが、大事なやり取りだったので一つずつ丁寧に対応した。

・演劇博物館での企画展開催に向けて最終段階に入り、引越し準備との兼ね合いでかなり忙しかった。

・9月30日、演劇博物館での業務を終えて、その足で金沢へ新幹線で向かう。

10月

・10月1日から着任。

・演劇博物館でのイベントの度に東京と金沢を往復する状況が続いた。

----------------------------------------------------------

 以上が4月に面接を受け、10月採用に向けて僕が経験した流れだ。例の一つに過ぎないが、これから大学での就職を目指す人や大学院へ進もうと考えている人の参考になれば幸いである。

書評会『夕焼雲の彼方に──木下惠介とクィアな感性』を終えて

 2022年9月21日、京都大学映画メディア合同研究室に書評会『夕焼雲の彼方に──木下惠介クィアな感性』を開催いただいた。3月末に出版した拙著に関する書評が出版から約半年経って出始め、この書評会はその一つだった。書評者を務めてくださったのは、日本国内のクィア・シネマ・スタディーズの第一人者である菅野優香先生(同志社大学)だ。博士後期課程から色々な機会で関わってきた方からコメントをいただくのは緊張したが、概ね好評をいただけてホッとした。

 拙著は博士論文をベースにしたものであるが、修士論文で書いたホームムービー論からも大きな影響を受けていることが今回の書評会でも改めて明らかになった。修士論文公聴会で「異性愛規範・家族至上主義を再生産・強化してしまうのでは?」という指摘から博士後期課程での研究がスタートしたことを思い出す良い機会になった。2016年に木下惠介のホームムービーの長尺版を発見したものの、博士論文ではそれを含めることができなかったため、拙著では書き下ろしで一章分を書いた。

 商業映画だけでなく、アマチュア映画も分析に加えることは、分析アプローチを再編することを意味した。木下がホームムービーを撮影した1949年までとその後に製作した商業映画をどのようにくっつけて、どのような物語を作り上げるべきか、かなり悩んだ。出版のギリギリまで書き直した箇所だったのだが、その点をうまく評価いただけたのが嬉しかった。

 

 もちろん、書評会を通じて残った課題はある。

・愛とはなんなのか。愛をどのように語ることができるのか。

・感性とはなんなのか。非常に定義しづらい概念であるため、もっと理論的にしっかり説明できるようにした方が良い。ジャック・バブーシオが提唱した「ゲイ的感性(gay sensibility)」とどのように異なるのか、共通点はあるのかなど。この点は査読論文で書いていたんだけど、拙著では削除した箇所だった。残しておけばよかったな。

・副査の先生からはテクスト分析をもっと精密化させるように助言をいただいた。精進するぞ。

 

 書評会にて、博士論文のテーマを決めるときに将来の就職についても考えたと触れたが、その点についてQ&Aで詳述しなかったので書いておく。

 博士後期課程に進む段階で、将来的に大学で働きたいと思っていたので、どのように自分を売り込むかという点は考えないといけなかった。日本国内では映画学や映像研究で就職できる大学の数は非常に限られている。そのため、学位を取った後にどの分野で職を得るかという点が課題になる。

 僕は修士でホームムービー論を書いたが、ホームムービー研究で常勤職を得られるとは想定できなかった。もちろん、現在は映像アーカイブへの関心は高まっているし、国立映画アーカイブなどでの就職もあり得るかもしれないし、IMAGICAのような民間企業を狙うこともできるだろう。

 博士後期課程に進むにあたり、学部時代の指導教員からは作家論を推奨された。作家主義は国内外で批判というか、反省点も多い分野だとされる場合もあるが、作家論を軸に、その作家がいた時代の映画(産業)史を学べというのが指導教員の意図だったかと思う。ただし、Jrec-Inを見れば分かるように、例えば「小津安二郎論で教員を採用する」なんてことはあり得ないので、何を対象に研究するかというより、何かを対象に研究するためにどのようなアプローチを使うかという点が大事になった。

 すでに常勤を得ていた映画研究者からも、久保さんの場合はジェンダーセクシュアリティの視点を扱うことで、将来的に自分の研究をアピールしやすくさせることもできるだろう、と助言を受けていた。その時は「そんなもんかー」と思っていたが、この助言は効果的だった。

 実際、僕が現在働く金沢大学の公募は映画研究での公募ではなく、アメリカ文化を中心としたポピュラーカルチャーについて、ジェンダーの視点を通じて論じられる応募者を求めていた。僕は日本映画研究者だから、アメリカ文化は無理でも、ジェンダーは該当するかもしれないから挑戦しよう!と思い公募に出したのが始まりだった。修士や博士の時は、なんでもかんでも手を出すのはまずいが、もし将来的に大学での就職を検討しているのであれば、自分のフィールドや自分と類似したフィールドでの公募にどのような条件が求められているのかを調査しておくのは大事だと思う。

 

当日使ったパワポのPDF版はresearchmapにて公開中です。

researchmap.jp

 

拙著もアマゾンなどで発売中です。

 

菅野優香先生が編集の論集も発売中です。

 

『ブエノスアイレス』のレビューを書きました。

 cinraにて、8月19日より開始したウォン・カーウァイ作品4Kレストア版上映に合わせて、『ブエノスアイレス』のレビューを書きました。劇場へ足を運ばれる前、運ばれた後にでもご笑覧いただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。

 

www.cinra.net

『モンスターズ・インク』についてレビューを書きました。

 VOGUEから依頼を受け、今夜、21時から『金曜ロードショー』で放映される『モンスターズ・インク』に関するレビューを寄稿しました。今夜の鑑賞前、観賞後、あるいは別日に映画のお供にしていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

 

www.vogue.co.jp